本当にあった話、または本当にあったこととしてそれを語る体験者が実在する話をして、実話と言う。 そうした体験者から寄せられた体験談、著者当人の体験を、他の誰か――読者に信じて貰えるように書かれたものが実話怪談。昔は怪談と言えばすべて実話怪談だった。というより、「本当にあった話なんだよ」という枕とともに語られるのが怪談だったわけで、全ての怪談は実話怪談だった。今から話す話は嘘の作り話なんだが――なんて枕を振られたら、全然怖くない。それは本当にあった話、または本当にあったと必死に訴える人が実在する話だからこそ恐ろしいのだ。
その実話怪談の新シリーズとして旗揚げしたのが恐怖箱。 実話怪談著者発掘大会・超-1から輩出された、野生の怖い話蒐集人の網に掛かり続ける膨大な量の実話怪談を、形に残していくために始められた。 そもそも実話怪談は、市井のあちこちに散在しているものだ。多くの人と人のささやかな接触のたび、少しずつ世の中に流れ出てくるものでもある。これまで、専門家を称する一握りの作家がそれらを丹念に拾い集める仕事を続けてきた。しかし、体験談を隠し持っている人に辿り着くことは容易ではない。専門家を称していても世界の全ての怪異体験者に通じているわけでもない。専門家が気付かないごく小さなコミュニティ、誰にも話されずに来た隠された話などいくらでもある。
恐怖箱は、そうした専門家にも手の届かない場所に埋もれている体験談を積極的に集め続ける人、悪い熱に魘されたようにそれをせずにはいられない人が集めてきた、実話怪談の形で世に残していくことを目指している。
恐怖箱では、主に超-1で注目を集めた著者を箱詰め職人が選んで指名する。 一人で一冊を任される単独制のこともあれば、「超」怖い話のような複数著者によるチーム体制の場合もある。課される条件も様々。 超-1という大会で発掘された著者が進む、次のフェーズと考えてもよい。 怖い話、本当にあった実話怪談、そういうものを出し続けていかなければ死んでしまう、というような人のための、怪談最終処分場とも言えるかもしれない。
言えることは、このシリーズは紛れもなく怖いということ。 どうかあなたの枕元に置いてやって下さい。
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